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東京高等裁判所 昭和63年(ネ)851号 判決

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴人は、「原判決を取り消す。被控訴人らの請求を棄却する。訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人らの負担とする。」との判決を求め、被控訴人らは、控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の主張及び証拠関係は、次のとおり付加、訂正するほかは、原判決事実適示並びに当審記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。

一  原判決二枚目裏五行目の次に行を改めて「右譲渡が控訴人主張のような強迫に基づくとの事実はない。」を加える。

二  原判決三枚目裏二行目の「無効である。」の次に「仮に、右株式譲渡が無効とまではいえないとしても、右譲渡の意思表示は被控訴人早水の強迫によるものであり、控訴人は当審第二回口頭弁論期日(昭和六三年一二月五日午後一時)において右譲渡を取り消す旨の意思表示をした。」を加える。

三  原判決四枚目表末行の「被告の取締役会は」から同裏初行末尾までを「控訴人の取締役の過半数が出席した取締役会において右承認の決議がなされた事実はない。」と改める。

四  原判決四枚目裏八行目ないし一〇行目を、次のとおり改める。

「1 右株式譲渡について、控訴人の取締役会として明示の承認はない。しかし、右譲渡当時、控訴人は堀恵一が全株式を保有する一人会社であり、堀恵一以外の取締役は単に名義上、名目的なもので、取締役会は会社設立時を除いては一度も開催されたことがなかった。このような状況において、堀恵一は右株式譲渡を行ったのであるから、右譲渡については取締役会の承認は不要と解すべきである。

2 また、右のような状況において右株式譲渡が行われ、しかも、堀恵一は、昭和五九年一一月一七日に控訴人代表者として株式譲渡承認書を被控訴人早水、同佐野に作成、交付したのであるから、右譲渡については取締役会の承認があったのと同視されるべきである。

3 しかも、控訴人は昭和六〇年八月二四日開催の株主総会において、被控訴人早水、同佐野を株主として認めて、議決権を異議なく行使させたのであり、会社の意思決定の最高機関である株主総会が右株式譲渡を承認したものと評価すべきであるから、もはや取締役会の承認の欠缺を主張することは許されない。

4 さらに、以上のような事実関係の下での取締役会の承認欠缺の主張は、明らかに権利の濫用であって許されない。」

五  原判決四枚目裏末行の次に行を改めて、次のとおり加える。

「右株式譲渡当時、控訴人には、取締役として、堀恵一のほか、細谷藤男、和田正一郎がおり、右両名は譲渡の事実自体を知らず、また昭和六〇年八月二四日の株主総会開催の事実も知らなかったから、右譲渡について両名が承認していたと推認する余地はなく、取締役会の承認があったとか、これと同視することができるとかいうことはできない。また、被控訴人ら主張の株式譲渡承認書は昭和六〇年八月二四日の株主総会開催後に日付を遡らせて作成されたものであるから、右株主総会自体が有効に成立していない。」

理由

当裁判所も、被控訴人らの本訴請求はすべて理由があるから認容すべきであると判断するものであるが、その理由は次のとおり付加、訂正するほかは原判決理由説示と同一であるから、これを引用する。

一  原判決五枚目表七行目の「乙第八号証、」の次に「原本の存在とその成立に争いのない甲第一〇号証の一、」を、同九、一〇行目の「第八号証の各一、二」の次に「(なお、甲第二、第五、第七号証の各一、二及び甲第六号証の一については、その堀恵一名下の各印影が同人の印章によることは当事者間に争いがなく、特段の反証はないから、右各印影は、同人の意思により押捺されたものと事実上推定される。)」をそれぞれ加え、同末行の「採用できない」を「採用することができず、他にこの認定を覆すに足りる証拠はない」と改める。

二  原判決五枚目裏八行目の「原告」を「被控訴人(原告)早水」と改める。

三  原判決六枚目裏三行目末尾に「堀恵一は、昭和六〇年七月ころ、被控訴人早水、同佐野の求めに応じ、控訴人代表者名義の株式譲渡承認書(昭和五九年一一月一七日付け)を作成して交付した。」を加える。

四  原判決六枚目裏五、六行目の「訴外酒井俊明」を「被控訴人酒井」と改める。

五  原判決六枚目裏九行目の「したがって、」から同末行までを「控訴人は、右株式譲渡の無効、取消しの主張をするが、譲渡の経緯は前記認定のとおりであるところ、原審における控訴人代表者の供述によれば、堀恵一は右譲渡に内心不満であったことが認められるが、右供述も、右譲渡が堀恵一の真意によらないこと、或いは右譲渡が被控訴人早水の強迫によることを裏付けるに足りるものではなく、他にこれを証するに足りる証拠はないから、右主張は前提を欠き、採用しがたい。」と改める。

六  原判決七枚目表初行から同八枚目表初行までを、次のとおり改める。

「三 控訴人の定款にその株式譲渡には取締役会の承認を要する旨の規定があること及び控訴人の取締役会において右譲渡につき明示の承認決議をしていないことは、当事者間に争いがない。

四 そして、右株式譲渡の当時、控訴人は堀恵一がその全株式を所有するいわゆる一人会社であったこと、前記第五回定時株主総会には被控訴人早水、同佐野も株主として出席したことは、前記認定のとおりであり、その議決権の行使に対し他の株主、役員が異議を述べた事実を認めるに足りる証拠はない。また、前掲甲第二号証の一、成立に争いのない乙第九号証、原審における控訴人代表者(後記措信しない部分を除く。)、被控訴人早水本人の各供述によれば、右譲渡当時、控訴人の取締役としては、堀恵一のほか、同人の叔父細谷藤男と同人の友人和田正一郎とがいたが、両名は単に名義を貸しただけであったこと、両名は前記第五回定時株主総会にも出席しなかったが、堀恵一が購入してきた印鑑を勝手に押捺して出席したものとして議事録が作成されたことが認められ、原審における控訴人代表者の供述及び当審証人細谷藤男の証言中、右認定に反する部分は、前掲各証拠に照らして直ちに措信しがたく、他に右認定を覆すに足りる証拠はないから、両名は名目的な取締役に過ぎなかったとみるべきである。そして、原審における控訴人代表者の供述によれば、控訴人は会社設立時を除いて取締役会を開催したことがなかったことが認められ、この認定に反する当審証人細谷藤男の証言は直ちに措信しがたく、他にこの認定を覆すに足りる証拠はない。

右認定した事実によれば、右株式譲渡は、一人会社の全株式を所有する者が行ったのであり、その後、その譲受人は株主総会に出席して議決権を行使し、しかも、これにつき他の株主、役員が異議を述べた事実は認められないのであり、他方、譲渡人以外の取締役は名目的な存在であって、取締役会自体が会社設立時を除き開催されたことがなかったというのである。したがって、株式譲渡につき取締役会の承認を要するとの定款の定めがある以上、このような場合についてもそれが不要であるとはいえないにしても、右のような事実関係においては、少なくとも譲受人が株主総会に株主として出席して議決権の行使が認められたことにより、会社の最高議決機関である株主総会の承認があったと評価され、これにより取締役会の承認があったのと同視されるべきであって、その後において、会社が右承認の欠缺を理由に譲渡が効力を生じていないと主張することは許されないというべきである。

したがって、控訴人の株主は、遅くとも昭和六〇年八月二四日以降、堀恵一(五〇〇〇株)、被控訴人早水(一万二〇〇〇株)及び被控訴人佐野(三〇〇〇株)の三名となったものということができる。」

七  原判決八枚目表一〇行目の「被告代表者のみで開催した」を「株主として堀恵一だけが出席して開催された」と改める。

八  原判決九枚目表四行目の次に行を改めて、次のとおり加える。

「なお、職権に基づき判断するに、被控訴人早水、同佐野、同酒井は、控訴人の取締役であると主張して、控訴人に対して本件訴訟を提起したものであり、前記認定のとおり控訴人は資本金一〇〇〇万円の株式会社であるから、株式会社の監査等に関する商法の特例に関する法律二四条一項によれば、本件訴訟においては、取締役会が定める者が控訴人を代表するのが本則である。ところが、本件訴訟において控訴人を代表しているのは堀恵一であり、同人が取締役会で会社を代表するものとして定められたことを証する証拠はない。しかし、控訴人は堀恵一が全株式を所有する一人会社であるというのが控訴人の本件における主張の前提であり、しかも、前記認定のとおり控訴人の取締役会はその設立時を除いて現実には開催されたことがないことを考慮すれば(なお同法同条二項参照)、馴合訴訟の防止という同条の立法趣旨に照らしても、取締役会による指定がないことを理由に堀恵一を控訴人代表者とした本件訴訟の提起、訴状の送達が不適法であるというのは相当でない。」

したがって、これと同旨の原判決は相当であり、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担について民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

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